カテゴリー「トールキン」の記事

2011年10月17日 (月)

逆さ竜巻生物

最初はつむじ風かなんかだと思った。くるくると落ち葉なんかが
渦巻く。つむじ風ならそのまま消えてしまうはずが、どんどん
大きくなっていく。しかも黒くなって密度が濃くなってきた。
そのうち小さな竜巻のごとく成長し、さらには地面から何やら
黒い影のようなものをどんどん集めて巻き上げていっている。
途中で気付いたのだが、竜巻は空から地上に向かって細くなって
いくけれど、これは逆なのだ。地面から黒い何かが這い上がって
あるいは吸い集めるような「根」のようなものが大きく広がって
いき、空に向かって渦巻きが細長く伸びている。その先端が雲に
つながっているのだ。

1


なんだこれは。と思っているうちにも、みるみるそれは巨大化し
ついにはビルの1つや2つなんか呑み込んでしまうほどになり、
さらに渦巻きはその黒さを増していく。そしてこちらへやって
くる。そのうち全体のちょうど真ん中あたりにくぼみというか
くびれのようなものができ、そこにさらに深い黒色をした丸い
球体が浮かび上がってきた。その大きさは直径がだいたい人間と
同じくらい。これを漆黒というのだろうか。それが迫ってくると
同じものが等間隔に3つ並んでいるのがわかった。

2


まるで目のような...。でもこれが目なのかどうかは不明。黒い
だけで動いてはいなかった。まわりの渦巻きは常に動いていて、
常に形を変えている。絵にすると毛みたいになってしまうので
難しい。とにかくこの巨大な逆さ竜巻のようなものが意志を持ち
すべてを呑み込んでいくのであった。

すべてを呑み込んで虚無と同等の漆黒=闇にしてしまうところは
トールキンのウンゴリアント、存在形態のおざましさと突飛さは
ラヴクラフトの蕃神(Other Gods)といったところでしょうか。
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2010年8月22日 (日)

図解 未知なるカダスへの旅 トールキン世界との相関性④

レンの修道院に足を踏み入れたカーター。中は迷路の
ような廊下が続いており、壁にはレンの年代記と
思われるフレスコ画がまざまざと描かれており、
一対の翼を持つ巨大な獅子が鎮座する古代の都市
サルコマンドとそこに住む人間もどきの姿、月からの
黒いガレー船から降り立つヒキガエルもどきとそれに
ひれ伏す人間もどき、インクアノクに向かう途中で
見かけた不気味な音がする巨大な岩に野営する様子、
レンとインクアノクをわかつ灰色の山脈とそこから
舞い上がるシャンタク鳥、その山頂付近の洞窟に
おびえるシャンタク鳥、その洞窟がングラネク山の
呪われた谷を思い出させ、そこに描かれているのが
夜鬼であることが明らかになった。

Kadath_036_3

そしてカーターは広いドーム状の空間に押し出された。
そこは中央にガグとガーストが潜むズィンに通じる
という円形の穴がぽっかり口を開け、その周りを
6つの不気味な石の祭壇が取り囲んでいた。一番奥の
台座付きの玉座には覆面で顔を隠した、伝説に聞いた
忌むべき大神官がいた。カーターを連行した商人が
身振りで何か合図をすると、大神官は凶々しい音色の
フルートを吹いて会話しているようだった。そのとき
大神官の絹衣がずり落ち、それが例の月のヒキガエル
もどきであるとわかり、カーターは死に物狂いの力で
商人を中央の穴に突き落として逃走した。しかし来た
道を引き返すどころか迷宮はカーターを奥へ下方へと
導くのだった。そして遂には垂直に落下し、気づけば
燐光放つ夜の雲の下、廃墟らしき都市の中にいた。

Kadath_038_2

遠くに円形の広場が見え、そこに一対の有翼の獅子の
姿があった。それはこの廃墟が古代都市サルコマンド
(Sarkomand)であることを語っていた。カーターは
修道院の迷宮の壁画に描かれた大岩がサルコマンド
から遠くないことを思い出し、もし小船でもあれば
あの大岩を通り過ぎてインクアノクに戻れるかもしれ
ないと考え、埠頭に向かっていくと、何やらかがり火が
見え、その向こうに例の月の黒いガレー船が見えた。

新たな危険と恐怖に襲われたカーターだったが、火の
周りをよく見ると、森で別れた案内係の食屍鬼3匹が
柱に縛り付けられ、ヒキガエルもどきと人間もどきが
取り囲んで拷問するたびに苦悶の絶叫をあげていた。

Kadath_040

そこでカーターは広場へ戻り、一対の有翼の獅子の
間に口を開けた深淵への螺旋階段を降り、闇の中で
再び夜鬼にとらえられ、食屍鬼たちのもとへ連れて
こられた。カーターが事の次第を話すと食屍鬼たちは
夜鬼を軍馬がわりに連隊を組み、3匹の救出作戦に
出発する。ズーグへの奇襲と同様カーターの機転に
よってヒキガエルもどきたちはあっけなく殲滅、
3匹は救出され、ピックマンはじめ食屍鬼たちは
その勢いのまま大岩の野営地まで進軍し、ヒキガエル
もどきと人間もどきを一掃し、カーターは大感謝
される。

そこでカーターは、ナイアルラトホテップに仕える
シャンタク鳥が、大いなる深淵の主である荘厳たる
ノーデンス(Nodens)に仕える夜鬼を恐れているので
カダスへ行くのにぜひ貸してほしいと頼む。すると
食屍鬼たちは、夜鬼の扱いは自分達が慣れているし、
恩義があるのでこのまま同行するというのだった。

Leng_2

そしていよいよカダスへ向けてカーターと食屍鬼
たちは夜鬼に乗ってはるか上空へ飛び立ち、北へ
進んでいく。踏破あたわざる山脈を越えシャンタク
鳥を追っ払うと、双頭の彫像山脈(Carven mountain
sentinels)が追いかけてきたが、夜鬼はさらに
上空へスピードを増し、星座が違うように見え始め、
遂には夜鬼はもはや羽ばたいておらず、逆巻く風の
混沌に軍勢は飲み込まれていった。

Kadath_041

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星をかき消す黒い塊、その巨大きわまりない山頂に
いくつもの塔を備えた縞瑪瑙の城があり、ただ一つ
灯火の役割を果たす高みの窓がある塔の一室に、
神々の姿はなく、魔的なトランペットが3度鳴ると
夜鬼と食屍鬼たちの姿はなくカーターは一人きりで
ファラオの姿であらわれたナイアルラトホテップと
対面したのだった。

Kadath_044

ナイアルラトホテップは言う。神々は夕映えの都で
浮かれ騒いでいる。懸命なる至高の夢見る者よ、
そなたは自身の幼年期のささやかな空想を基に、
かつて存在したいかなる幻よりも美しい都を作り、
神々をそこへひきいれたのだ。ゆえにそなたのみが
神々を本来治めるべきこのカダスの城へ連れ戻す
ことができる。かの壮麗なる都へ行くには、ただ
そなたが幼き頃見て愛したものを思い出し、
物思いに沈む少年時代の思いや空想をふりかえり
さえすればよいのだ。さあシャンタク鳥に乗って
高みのエーテルに遥かな歌声がきこえるまで
南の最も明るい星ヴェガを目指せ。歌声に誘われて
自分を失わぬうちに眼下の都の光を目指して進み
都に近づけばシャンタク鳥から降り、その鳴き声で
神々にカダスを思い出させよ。しかれば神々は
カダスへ戻り、そなたは都に留まるがよい。

Kadath_045

そしてカーターはシャンタク鳥にまたがって
夕映えの都へ向かう。しばらくして遥かな調べが
聞こえてきて、警告通りカーターもシャンタク鳥も
その調べに魅了されてしまい、蕃神の幼虫が漂い
アザトホースが飢えてかじり続ける時間を超越した
無へと向かっていった。

Kadath_048

しかしカーターは自分が夢を見ていること、
覚醒する世界と幼年期の都が存在することを思い出す。
そしてシャンタク鳥から飛び降り、暗黒の果てしない
虚無を落下し続け、宇宙の様々な現象を目にする。
幾筋もの光が外宇宙の魔物どもを退散させた。
荘厳たるノーデンスが勝利の叫びをあげたとき、
ナイアルラトホテップはその輝きに茫然と立ちつくした。
カーターは遂に壮麗なる都の階段に降り立っていたが
これは自らを育んだ麗しいニューイングランドの地を
再び訪れているためであった。かくしてカーターは
ボストンの居室で目を覚ましたのだった...

しかしその頃ナイアルラトホテップは...とか
その後夢を見られなくなったカーターは...と、
「銀の鍵」へと話は続いていきます。

この際なので、カダスとトールキン世界の登場キャラや
国や都などの相関図を作ってみました。
もちろん=(イコール)ではなく、あくまでそれぞれの
世界観の中での役割や位置付け、それに相当する
イメージや連想されるものとして当てはめてみたものです。

アザトホース      モルゴス(メルコール)
ナイアルラトホテップ  サウロン
双頭の歩哨       バルログ
シャンタク鳥      ナズグル 
月のヒキガエルもどき  オーク 
人間もどき              ウルク=ハイ
ガグ                    トロール
ガースト        モリアのオーク
ズーグ         ホビット
ウルタールの猫軍    エルフ
食屍鬼         ドワーフ、エント
夜鬼          イーグル  
惑わしの森       ロリエン、古森、ファンゴルン
ウルタール       ブリー村
ダイラス・リーン    エドラス 
西の玄武岩柱の大瀑布  ラウロスの大滝
バハルナ        ミスロンド(灰色港)
ングラネク山      カラズラス(赤角山)
ガグの街の中央塔    キリス・ウンゴルの塔
食屍鬼の国       死者の沼地
トゥーラン       ミナス・ティリス
セレファイス            アンドゥーニエ(ヌメノール)
インクアノク      ゴンドリン
レン          ゴルゴロス(モルドール)
レンの迷宮修道院    モリア
サルコマンド      ミナス・モルグル
踏破あたわざる山脈   オロドルイン/ペローリ山脈
カダス         タニクウェティル
縞瑪瑙の塔       バラド・ドゥア
夕映えの都       ティリオン(ヴァリノール)

こうしてみると、ラヴクラフトの場合、猫以外は皆醜悪で
グロテスクなキャラばかりですが、面白いのは皆が皆悪者
というわけでもなく、かといって善というわけでもない、
というところです。(食屍鬼や夜鬼がよい例です)
この非二極的善悪観や物事を多面的に捉えるところが、
実はトールキンにも共通していて、指輪物語は一見して
ハッピーエンドに見えますが、中つ国では決して癒えない
傷を負ったフロド、エレスサール王(アラゴルン)亡き後
同胞の待つ地へ行けず数千年もの間その寿命が尽きるまで
一人孤独に朽ち果ててゆく運命を選んだアルウェン、また、
ゴラムがいなかったら指輪を葬れなかったこと、サルマン、
ボロミア、デネソール等の人物描写から、より深い人間性を
見つめており、決して単純な勧善懲悪のストーリーではない
ことは明らかです。

もちろん両者の世界観には決定的な違いがあります。
トールキンの悪は人間性に関るものですが、ラヴクラフトは
人間的な善悪の範疇を超えた悪を扱っているのです。
アザトホースに比べればサウロンやモルゴスでさえ人間的で、
人間が思いつくような残酷さや卑劣さでもって人間を苦しめ
貶めますが、ナイアルラトホテップやアザトホースは人間の
考えの及ばない、全く異質の、未知の恐怖と狂気をはらんで
いるのです。

いずれにせよ、彼らは永遠の光と虚空の闇を見たのでしょう。
それは人間の原初的な記憶に刻まれ、昔から神話が繰り返し
語ってきたものであり、その普遍性は優れた芸術作品に様々な
形であらわされてきました。
真に普遍的なものはきわめて独創性に満ち溢れており、
普遍性と大衆性はまったく違うものです。それを勘違いして
表現やアイディアや雰囲気だけを表面的表層的に真似すると
「ロード・オブ・ザ・リング」の成功の後ことごとく映画化に
失敗した多くの作品のようになってしまうというわけです。

ということで、狂気の山脈の映画化にますます期待が高まる!
(ホビットの冒険の映画化はかなり苦労している様子...)

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2010年8月19日 (木)

図解 未知なるカダスへの旅 トールキン世界との相関性③

壮麗なる尖塔の都トゥーラン(Thran)の旅籠で久々に
ゆっくりとした一晩を過ごした後、カーターは順調に
緑色のガリオンに乗船し、セレファイス(Celephais)に
向けて長い航海に出る。密林に囲まれたクレド(Kled)、
花崗岩の城壁が際立つ交易都市フラニス(Hulanith)を経て、
船はいよいよセレネル海(Cerenerian Sea)へ乗り出す。

Thran

航海の間、カーターは船員たちにセレファイスで
見かけた、神々の顔容の特徴をそなえた人々について
尋ねてまわった。船員が知るところは多くはなかったが、
彼らの国は遥かに遠くインクアノク(Inganok)と呼ばれ、
寒い薄明の地レン(Leng)に近いということだった。

さて茫々たるセレネル海の前方に、雪を抱くアラン山
(Mt.Alan)が姿をあらわし、遥かなるタナール丘陵
(Tanarariann Hills)が背後に広がるオオス=ナルガイ
(Ooth-Nargai)の地が近づいてきた。その都セレファイス
(Celephais)は光塔群がきらめき、青銅の彫像を擁する
大理石の城壁、ナラクサ河(Naraxa)にかかる巨大な
石橋が旅人を迎え、周囲は木立や花園、小さな聖堂や
農家が点在する...この美しい情景描写は、ヌメノールを
彷彿とさせます。(アラゴルンの遠い先祖の王国)

セレファイスへ降り立ったカーターは、ウルタールの
老将軍猫から教わった合言葉により、セレファイスの
長老猫に謁見し、都を治めるクラネス王の居場所を
教えてもらう。草原が海の絶壁からタナール丘陵の
裾野へと優美にうねり登っていく都の東の田園地帯に
修道院を望む荘園屋敷に住まわれているという。
(アイルランドやイングランド、ウエールズの田舎
特にコーンウォールを思い起こさせます。)

実はカーターは覚醒した世界でクラネス王とは友人で
あったが、現実でのクラネスは死んでしまったため
夢の世界でのクラネス王がどこにいるかわからず、
従って双方にとって久しぶりの再会となり、2人は
積もる話に花を咲かせるのだった。そしていよいよ
カーターが未知なるカダスへ赴いて、夕映えの都への
道を開いてくれるよう神々に嘆願するという計画を
打ち明けると、クラネス王は断念するよう警告する。
そしてそもそもその夕映えの都は、カーターの幼少の頃の
記憶にとどまっている情景なのではないかと示唆する。
それというのも、クラネス王もこのセレファイスの都に
憧れて統治するに至ったにもかかわらず、幼少期の自分を
形作ったイングランドに古くからある馴染み深いものに
焦がれ続けているからであった。しかしカーターの
意志は固く、セレファイスの港でインクアノクからの
船の到来を待った。

そして遂にングラネク山に刻まれた神々=大いなるもの
(The Great Ones)の血を引く者たちの乗った船が入港し、
例の顔容を備えた商人や船員が降りていくのだった。
カーターは自分は縞瑪瑙採りでインクアノクの採石場で
働きたいと申し出て、その黒い船に乗り込み再び紺碧の
セレネル海へ出るのだった。航海中、カーターは慎重に
船員や商人たちとの交流を深め、縞瑪瑙の都インクアノク
(onyx city Inganok)や、薄明の地レンとそれにまつわる
不吉な噂、またそこを遮る踏破あたわざる峻険な山脈
(Impassable Peaks)などについて少しずつ聞き出した。

Celephais_3

セレファイスから20日目のこと、前方遥かに花崗岩から
なる巨岩(Jagged Rock)があらわれた。これには名前は
なく、夜に不気味な音が聞こえてくるので近寄る船は
ないという。それから2日後、遥かな東に薄明の雲に
隠れてその頂が見えない灰色の巨大な山脈があらわれ、
間もなく縞瑪瑙の都の球根状の円蓋や、渦巻装飾、
縦溝装飾、唐草装飾の施された様々な尖塔が姿を表し、
中心部の丘には16角形の神殿がそびえ立つインクアノクに
到着した。(どうもイスラムのモスクを彷彿とさせる)

街の道すがらダイラス・リーンで見かけた目のつり
あがった商人に似た人物を目にするが、船の船長に
案内されて中央の大神殿に向かう。この神殿は壁に
囲まれた庭園の中にあり、様々な通りが集まる大きな
円形の広場に位置していた。(これはまるでサルマンが
居していたオルサンク!)その庭園の7つの門は常に
開かれ、庭園には縞瑪瑙でできた噴水、池、水盤がある。
(ゴンドリンを連想するなぁ)
鐘楼から鐘の音が響き渡り、角笛とヴィオルと人の声が
唱和されると覆面と頭巾をまとう神官たちが長い列を
なし、奇妙な湯気をたてる黄金のゴブレットを捧げ持ち、
神殿の7つの扉からあらわれ妙なきどった歩き方で庭園の
門のそばの7つの小屋へ姿を消してゆく。この神官たちが
人間ではないと囁く者もいた。

Kadath_030

さてカーターは一頭のヤクを借りて採石場をまわると
いう名目で北へ出発した。耕作地と低い丸屋根の家屋が
建つウルグ村(Urg)を過ぎると道は狭く登り勾配になり
まわりも岩場が多くなってきた。踏破あたわざる山脈
(Impassable Peaks)の灰色の斜面は不気味に常に右手に
そびえていた。途中で鉱夫たちと野営地で過ごしたが
皆あまり北へ行き過ぎないようにと忠告するのだった。
その後道はいよいよ険しく、暗く、寒く、足元には
人間の足跡も蹄の跡もなく、岩の断片で覆われていた。
するうち、ふいに左手にぽっかりと巨大な空間が現れ、
それこそが神々がその恐るべき力でもぎとった太古の
採石場跡であると悟る。すると突然ヤクが何か恐怖を
感じ、叫ぶと走り出した。追いかけるカーターはすぐに
自分も何かに追いかけられていることを知る。例の
目のつりあがった商人は、恐るべき伝説のシャンタク鳥
(Shantak-bird)と共にすぐにカーターを追い詰めた。

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馬頭の、象よりも大きく、羽毛の代わりに鱗の翼を持つ
シャンタク鳥に乗せられて、カーターは凍てついた
空を上昇し、しばらく西へ飛び続けると眼下に荒涼たる
灰色の平原があらわれた。下降するにつれ、石造りの
小さな小屋が点在する村があらわれ、笛の低い音色と
シンバルの不快な打ち鳴らしが聞こえ、弱々しい炎の
周りで何かが舞踏に興じているのが見えてきた。
狂ったように体をねじったり曲げたりし、ゆっくり
ぎこちなく蹄で飛び跳ね、頭には小さな角、体は毛で
覆われ、口が異様に大きく、小さな尾が揺れていた。
これこそダイラス・リーンで見かけた商人であり、
月のヒキガエルもどきの奴隷である人間ではないもの
(almost human)であり、こここそが不吉なレン(Leng)
であり彼らの故郷なのであった。

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しかしシャンタク鳥は飛び続け、岩と氷と雪の小暗い
荒野の上を進み、無人の高地へ向かった。沈黙と薄闇と
冷気の只中に忽然と窓のない石造りの建物が、粗雑な
環状列石に取り囲まれてそびえたち、カーターはその
低い迫持作りの戸口へ進まされ、例の商人につつかれ
ながら、中の闇へと足を踏み入れた。
(ここはフロドたちホビット4人がブリー村に向かう
途中で捕まった塚山を思い出します。あるいはモリア!)

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次回はいよいよカダスの謎が明らかになります。

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2010年8月17日 (火)

図解 未知なるカダスへの旅 トールキン世界との相関性②

なんだか夏休みの自由研究みたいになってきた...

さてダイラス・リーンに戻ったカーターは、
今度こそ帆船に乗り込み、10日の航海を経て
オリアブ島のバハルナ港に到着する。帆船の船長は
内陸のヤス湖畔の自宅にカーターを招待してくれた。
船長が再びダイラス・リーンに向けて出航すると、
カーターは酒場や旅籠で ングラネク山に刻まれた
神々の顔容について尋ねて回ったが、たむろする
溶岩採りたちは 山の背後には呪われた谷があり、
そんなに高くまで登るのは難しく、また恐ろしい
夜鬼の噂をするばかりで、実際にその刻まれた神を
見た者には巡り会えなかった。

情報収集にメドをつけたカーターは溶岩採りとして
シマウマを一頭借り、ングラネク山へ向かう。
最初のうちは他の溶岩採りに出会って小屋で一緒に
夜を明かしたりしていたが、道が狭く険しくなるに
つれて人気もなくなり、遂にシマウマを置いて
単独で登ることになる。岩だらけで空気は薄く
寒さは厳しくなっていく。そしてやっとのことで
ングラネク山の裏側に達し、さらに上があることを
知ったそのとき、夕日に映し出された巨大な顔の
彫られた大岩を目にする。それこそ神々が自らの
顔容を彫ったという大岩だった。そこには
長く細い目、耳朶の長い耳、薄い鼻、尖った顎
という特徴が見てとれた。

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カーターはこの特徴に見覚えがあった。タナール
丘陵(Tanarian Hills)の彼方のオオス=ナルガイ
(Ooth-Nargai)の都セレファイス(Celephais)で
これと酷似した顔の者たちをよく見かけたのだ。
その者たちこそ神々の血を引く半神であり、その者
たちの住まう地の近くにこそ未知なるカダスがあるに
違いない、カーターはそう考え今度はセレファイスに
向こうことにする。

しかし、オリアブ島からオオス=ナルガイの地までは
遥かに遠い。まずダイラス・リーンへ戻り、また再び
惑わしの森に入って今度は北へ抜け、トゥーラン(Thran)
からセレネル海(Cerenerian Sea)を渡って
セレファイスまで行く船を見つけなくてはならない。

そうこうしているうちに辺りは闇に包まれ、登るも
下るもままならず身動きがとれなくなってしまった。
すると音もなく近づいてきた何かに突然首と足を
掴まれて、手荒に空中に運び去られてしまう。
これこそが噂に聞いた夜鬼(Night-gaunt)だった。
不快なほどに痩せこけ、頭にねじれた角を持ち、
その角は向かい合って湾曲している。顔のあるべき
ところは空白になっており、黒いゴムのような体で
冷たくぬらぬらしている。背にはコウモリの翼が生え、
針毛突起のある尾を持ち、物をつかめる手は器用で
カーターが悲鳴を上げるたびにくすぐるのだった。

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(この夜鬼(Night-gaunt)のイメージにかなり近い
ものが今年の春頃に公開された映画「タイタンの戦い」に
出てきました。主人公を邪魔するコウモリ小悪魔くん
みたいなやつで、痩せて黒くてぬらぬらしてて非常に
イヤラシイ動き。(角はなくて顔は普通でしたが)

さて夜鬼にくすぐられながらカーターは周囲が
青白い鬼火によってのみ照らされ、原初の地底へと
向かっていることを知る。遥か下方に灰色のトォーク
山脈(Thok's peak)が見え、その峰々が頭上になるまで
下っていった。すなわちそこは噂に聞いた呪われた谷、
ドール族の這い回るナスの谷(Bholes of Pnath)であり、
食屍鬼(Ghoul)たちのゴミ捨て場なれば、辺り一面には
おびただしい骨が堆積していた。そんなところに
カーターは置き去りにされてしまったのだ。
侵入者をここまで運ぶことがングラネク山を守護する
夜鬼の務めらしく、カーターを降ろすとさっさと
音もなく飛び去っていった。

この恐怖の中でもカーターにはわずかながら希望があった。
かつて友人であった画家がその絵のモデルである食屍鬼と
実際に親交を結び、カーターにその胸のむかつくような
食屍鬼の言葉をいくつか教えてくれていたのだった。
(1926年執筆作品「ピックマンのモデル」に出てくる画家
ピックマンのその後という設定になっている)
見たこともないドール族に出会うよりは、少しは話の
通じる可能性のある食屍鬼のほうがマシだと考えたのだ。

そしてトォーク山脈を目印にどうにか食屍鬼の領域近く
まで慎重に進み、合言葉を叫んで縄梯子を降ろしてもらい、
数時間昇り続けて遂に食屍鬼の国へ到着する。そこは
覚醒した世界に一番近く、墓石や壷上装飾や遺物が
散らばるほの暗い平原で、何匹もの犬めいた顔つきの
食屍鬼が骨や墓石の断片をかかえて前かがみになり
ガーゴイルのように座り込んでいた。

Kadath_021

カーターは今は傑出した食屍鬼となった、かつて画家
ピックマンだった者に引きあわされた。ピックマン
だった食屍鬼は旧友との再会を喜び、カーターに協力
してくれる。そして案内役の食屍鬼3匹とカーターの
珍道中が始まる。とは言え巨大なるガグ(Gug)どもの
国を抜けていかなければ惑わしの森へ戻る道はなく、
非常に危険な旅でもあった。カーターはその人間臭で
昼寝中のガグを起こさないように食屍鬼に変装して
体に泥を塗り、その容貌を真似て前かがみになって
ガグの国へ進んでいく。

Kadath_023

途中、ズィンの穴(Vaultsof Zin)でガグとその宿敵
ガースト(Ghast)の小競り合いをやり過ごす。
ガグは黒い毛に覆われた一本の腕に短い前腕部を介して
鉤爪を備えた2つの手を持ち、二つのピンク色の目は
側面から2インチ突出し、その口は大きな黄色の牙を備え、
頭の上から下へと水平にではなく垂直に開いている
のであった。

Kadath_025

ガーストといえば、その小さい体からは想像できない
ほど凶暴で、とがった固い蹄を持ち、敏捷に跳ね回り
噛み付き、引き裂き、切り裂くのだった。

カーターと3匹の食屍鬼は寝静まるガグの街を進み、
コスの印を持つ中央塔(Central Tower with the
sign of Koth)に忍び込み、大階段を上っていく。
(この辺りはモルドールへ進入したフロドとサムの
旅を連想しちゃいます。捕らえられたフロドを救出
しにキリス・ウンゴルの塔へ入っていくサム!)

Kadath_026

途中からガースト、さらにガグまでもが追ってきたが、
どうにか巨大な石の揚げ戸(The great stone trapdoor)
まで上りつめ、持参した墓石をてこにして揚げ戸を持ち
上げて、カーターたちは惑わしの森へ逃げ込んだ。
(ガグどもはこの揚げ戸に呪いがかかっていると信じて
いるのでこれを開けて追ってくることはないのだった)

Kadath_027

再び惑わしの森(Enchanted Wood)へやってきたカーター。
3匹の食屍鬼は当初カーターだけを森へ送り、自分たちは
そのままガグの街を引き返して食屍鬼の領域へ戻るつもり
だったが、塔の階段でガグに追われてしまったので、
引き返すことはできず、従ってサルコマンド(Sarkomand)
の中央広場にあるという食屍鬼の領域へと通じる深淵の
戸口から帰ることにしたが、彼らはサルコマンドが
どこにあるのかさっぱりわからなかった。カーターは
サルコマンドが薄明の地レン(Leng)の下方の谷間にある
ことを思い出すと共に、かつてダイラス・リーンで
レンで商いをすると噂される目の吊上がった商人に
出会ったことを思い出した。そこでカーターは彼らに
ダイラス・リーンまでの道程を教え、3匹の食屍鬼に
別れを告げた。

さて、カーターはトゥーランに向けて森を進む。
するとなにやらズーグ族の寄り合いの様子が遠くから
聞こえてきた。カーターが身を潜めてそれを盗み聞き
したところ、どうやらズーグ族はウルタールの猫を
奇襲する計画に熱中しているようだった。というのも
カーターが前回この森からウルタールに向かった時、
好奇心が強く悪戯好きのズーグ一行が後をつけていて、
ウルタールの猫にちょっかいを出したのだが、その
ズーグ達は手酷いしっぺ返しをくらったようなのだ。
その報復ということであろうが、カーターとしては
これは一刻も早く猫たちに知らせなければ、と森の
はずれに出て星の照らす平野に猫の鳴き声を送った。

すると近くの農家の猫がその趣旨をくみとり中継し、
猫から猫へとウルタールまで中継がされていった。
(ゴンドールからローハンまでの烽火の中継みたいだ)

月は出ていなかったので、月へ遊びに行っている猫は
おらず、すべての猫が地上にいた。そして猫たちは
編隊を組んでカーターのもとへやってきた。かつて
ウルタールの宿屋で可愛がったあの黒い仔猫は今や
この軍隊の中尉にまでなっていた。カーターの策略で
奇襲するつもりのズーグ族は逆に猫軍に奇襲攻撃され、
ズーグは敗北し、猫たちに有利な協定を結ばされた。
ズーグがカーターに恨みをいだいて危険だろうと
いうことで、森のはずれまで猫軍がエスコートして
くれる。これまで食屍鬼と旅をしてきたカーターに
とってはこのうえなく優美な仲間との旅をつかの間
楽しんだ。道中で老将軍猫がセレフィアスの猫の長への
合言葉と紹介の言葉を教えてくれたのも心強かった。
森を抜けたところでカーターはトゥーランに向かう
ために平野に出て、猫たちは別れを惜しみながらも
森を引き返していった。

優美で愉快な旅の仲間を失って再び一人となった
カーターだったが、トゥーランへの進路を示す水音も
快いオウクラノス河(River Ouklanos)に沿い、木立や
芝生のあるなだらかな斜面に様々な花が咲きそろい、
あたかも妖精の土地に迷い込んだようだった。
(この緑の土地 Verdant Land の様子はホビット村を
思い起こさせます。ラヴクラフトもこんなのどかで
美しく心休まる風景描写をするのですよ。)

Kadath7_6

そして夕暮れの頃に千の尖塔(Thaousand gilded
spires)が光り輝くトゥーランThran へ到着した。
(壮麗な雪花石膏の城壁など、この都の描写は
中つ国ゴンドールの都ミナス・ティリスを彷彿と
させます。)
ングラネク山から夜鬼に連れ去られて地底世界の
食屍鬼やガグの国でのおどろおどろしい描写から
正反対の美しい世界へやってきて、読んでいるほうも
ほっと一息つく感じ。このコントラストが素晴らしい。

さて次回はトゥーランからガリオン船に乗り込み
セレファイスに向かいます。

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2010年8月16日 (月)

図解 未知なるカダスへの旅 トールキン世界との相関性①

なんか大袈裟なお題になっちゃたけど、もし自分に子供がいたら
毎晩読み聞かせたことであろう手作り絵本みたいな感じ。

話の発端は、主人公ランドルフ・カーターが夢で
理想郷のような「夕映えの都 The Sunset City」を垣間見るが、
いざそこへ行こうとすると夢は断ち切られ、その後は隠されて
しまったかのようにどうしても見ることができず、カーターは
道を開いてくれるよう直訴しに神々が住まう禁断の地カダスへ
旅立つ。(だから本来は「失われた夕映えの都を求めて ~
Seeking for The Lost Sunset City」なんじゃないかな...)

夕映えの都の描写はラヴクラフトの一般的イメージからは
程遠く、実に優美で繊細。まるでトールキン世界の神々
Valarや光のエルフ達が住まうヴァリノールのようだ。

さてカーターは深き眠りの門を越えて「魔法の森 Enchanted
Wood(私は惑わしの森と呼んでいる)」へやってくる。
そこは巨大な樫の木や異様な色のキノコが燐光を放つ、
よく地底世界とかに出てくる不思議な森の原型のような印象。
そこには小さくて茶色のズーグ族がいる。穴や巨木の幹に
住んでいるのでホビットを連想してしまうが、ズーグは
もっと動物的というか原始的というか、そこはやはり
ラヴクラフトだ。すばしっこくてなんとなくズルイ感じ。

Kadath_002

凶暴な一面もあるが、カーターとは知り合いなので
一応歓迎される。カダスのことはよく知らないけど
ウルタールには神々の徴を見た者がおりますぞ と
月樹の酒をふるまって旅の無事を祈ってくれる。

ということで、カーターはウルタールへ向かう。

惑わしの森を抜けて平野に出て、ニル(Nir)を過ぎ
スカイ河(River Skai)を渡り、「何人も猫を
殺すべからず」という掟があり、いたるところで
猫が往来するウルタール(Ulthar)へ到着する。

Kadath_005

この街は古風な尖り屋根と張り出し式二階建ての
家屋、玉石敷きの通りなど、中つ国のブリー村を
連想させる。まずカーターは<古のもの>の神殿
(Temple of the Elder Ones)を訪れ、禁断の
霊峰ハテグ=クラ Hatheg-Kla に登って生還した
老神官アタルにカダスと神々のことを尋ねる。

アタルは そんな大それた旅はやめなさい、
神々は夕映えの都をそなたから隠したがっており
いくら直訴したところで不興をかうだけですぞ
しかも神々は外世界から到来せし蕃神(The Other
Gods)にまもられており、まずカダスには到底
辿り着けないだろう と忠告するばかりだったが、
ズーグの月樹の酒で酔わせると、南のオリアブ島
(Isle of Oriab)にあるングラネク山(Mt.Ngranek)に
神々が自らの姿を彫った像がある と話してくれた。

そこでカーターは次にオリアブ島を目指す。
その日はウルタールの宿屋で一晩過ごし、
膝の上に飛び乗ってきた黒い仔猫を可愛がる。
(ラヴクラフトはかなりの猫好きで、ここでも
カーターを自分の分身としていることが明らか)

Kadath6_2

さてウルタールからスカイ河に沿って7日旅し、
玄武岩の波止場ダイラス・リーン(Dylath-Leen)へ
やってきたカーター。ここにはあらゆる土地の
奇妙様々な船乗り達がたむろして、そのなかには
地球にあらざる土地の者もわずかにいるという。
陰鬱な酒場を何軒もまわってカーターが集めた
情報によれば、ングラネク山はオリアブ島の港町
バハルナ(Baharna)からシマウマで2日の道のり
だという。バハルナへ寄港する船もひと月のうちに
出るというのでカーターはそれまで待つことにし、
その間さらなる情報収集をしようとするが、
船乗りや商人たちはこぞって<黒いガレー船>
(The Black Galley)の話ばかりするのだった。

Kadath_006

その悪臭放つ船から降り立つ商人は、口が異様に
大きく、額の上の二箇所をコブのように盛り上げて
ターバンを巻き上げ、目はつり上がり、妙な形の
短い靴を履き、産地不明のルビーと引き換えに
黒人奴隷を買っていくのだが、不思議なことに
その船の漕ぎ手の姿を見たものはいないという。

ある日いつものようにカーターがングラネク山に
ついて聞きまわっていると、そのターバン巻きの
商人がつくり笑いと共に話しかけてきて、内密の
情報があるというので部屋に招き入れ、ズーグの
酒で酔わせようと思ったのが反対に商人の酒を
飲まされてカーターは気を失ってしまう。

Kadath_007

気がつくとカーターは黒いガレー船の甲板にいた。
拉致されてしまったのだ。ガレー船は尋常ならざる
速さでザル(Zar)の神殿、タラリオン(Thalarion)の
尖塔、ズーラ(Xura)の納骨堂庭園、ソナ=ニルの港
(Sona-Nyl)を次々と通り過ぎ、遂には西の玄武岩柱
(The Basalt Pillars of West)まで見えてきた。

Kadath5

そこは夢の国の海が無の深淵になだれこむ大瀑布の
門口であり、その先は秩序ある宇宙の外のおぞましい
空虚にて、盲唖の蕃神(The Other Gods)どもが
その使者ナイアルラトホテップ(Nyarlathotep)と共に
太鼓をたたき、フルートを吹き、冒涜的な踊りに
興じる混沌の只中、魔王アザトホース(Daemon-Sultan
Azathoth)が飢えてかじり続けているという...
(↑これぞラヴクラフトの宇宙的狂気!!!
ちなみにトールキンでも世界の壁の向こうの永劫の空虚
(Timeless Void)で、追放されたモルゴスが妬ましく
彷徨っている...という描写があります)

さてさて、そのうちにいよいよ西の玄武岩柱が迫り、
大瀑布に落ちるかと思いきや、なんとガレー船は
勢いよく空中へ飛び出し、粘着質の蕃神の幼虫(larvae
of the Other Gods)が浮遊するエーテル宇宙を漂い
月の裏側へと航海を続けます。そこは油のような海と
菌類の原野、鋸歯状の丘陵が広がり、月樹と同種の木が
立ち並ぶ異様な世界。低くて窓のない幅広のドーム状の
小屋や、やはり窓のない灰色の太い塔が傾き群がり、
悪臭放つ埠頭には見たこともない変な生き物達がいた。

Kadath_009

それは目はなく、短いピンク色の触角が集まったものが
太くて短い鼻の先端にある、自在に収縮する灰白色の
ぬるぬるしたヒキガエルのようなもの(Tod-like moon-
creature)で、荷物を運んだり、櫂を手にガレー船に
乗り込んでいったり、奴隷と思われる者を追い立てたり
しているのであった。この奴隷がダイラス・リーンの
口の大きな商人に似ているものの、ターバンや服を
身に着けていないのでおよそ人間には見えなかった。

Kadath_011

そして船が埠頭へ到着すると、カーターは降ろされ
石造りの窓のない建物へ幽閉され、何日経ったか
不明の後、建物から出されて松明を持った奴隷たちと
仰々しく行進するヒキガエルもどきと行進させられ、
ナイアルラトホテップに引き渡される儀式へ向かう
ものと思われたまさに窮地に、ウルタールから月へ
遊びに来ていた猫たちが鋸歯状の丘陵から群れを
なしてカーターを救出するのである。

Kadath_014

カーターがウルタールの宿屋で可愛がった黒い
仔猫の祖父こそがこの軍勢の指揮官だったのだ。
ヒキガエルもどき(moon-creature)も奴隷の半人間
(almost human)も散り散りになって逃げ惑い、
カーターは猫たちと一緒に大ジャンプして月の
裏側からダイラス・リーンの宿屋へ帰還する。

"The leap of the Cats"

Kadath_016
ここでは猫がまるでフロドを助けてくれる
エルフのように描かれていて可愛らしくて面白い。
危機を脱したカーターはこの後ようやく念願の
バハルナ行きの船に乗り込むのだが...

続きはまた次回!

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2010年8月14日 (土)

ラヴクラフト 夢の地図

旦那さんのお土産のラヴクラフト英語本をやっと読破。
あー面白かったけど大変だった。特に「狂気の山脈」と
「時間からの影」は文体が変に凝っていて難しかった。
で、この2作はやはり後期の長編だけあって完成度も高く
世界観やストーリーも面白いのだが、私としては今回
英語で読むとこんなに印象が違うのかと驚きつつすっかり
お気に入りになってしまったのが「未知なるカダスを
夢に求めて(The Dream Quest of Unknown Kadath)」である。

ラヴクラフトというと一般的にキワモノとか魔物小説とか
マニアの間でもクトゥルフとかそういう暗黒神話という
印象が強く、訳者にしても後期の作品への評価ばかり高く
この「未知なるカダス..」の主人公ランドルフ・カーターが
夢の国と現実を行き来する「銀の鍵」などの一連のいわゆる
"ランドルフ・カーターもの"はその後に執筆された長編
「狂気の山脈」と「時間からの影」への過渡期的な習作と
とらえる傾向があるようだ。(未知なるカダスの訳者は
そんなことはなく、ちゃんと評価しているようだけれど)

私としては確かに小説としての完成度を考えれば、その
長編2作は面白いしラヴクラフトを代表する作品として
考えるのも妥当だと思う(実際英語版を読むまではこの
2作が一番好きだった)けど、ラヴクラフト本来で独自の
オリジナリティや発想や世界観が一番生き生きと描かれて
いるのは「未知なるカダス..」だと思うのだ。

当初は発表するつもりはなく書き始めたというのも、
この作品の独自性・唯一性を高めているのかもしれない。
むしろこの作品はラヴクラフトらしくないのかもしれない。
けれど何かとても純粋なラヴクラフトさを感じる。
英語で読んで印象が変わったのは、もちろん日本語訳が
悪いというわけではなく、英語ならではのある種詩的な
表現やトールキンに通じる世界観が感じられたからだ。

中つ国のような夢の国があり、ランドルフ・カーターは
森を抜け船に乗り山に登り、様々な魔物に邪魔されたり
協力したり、猫の群れに助けられたり、フロドの旅に
負けないくらい大変な苦労の末にカダスに辿り着く...
のだが!この物語の独特の結末も一般的な評価を難しく
しているのかもしれない。そこがいいんだけどね。

というわけで、いろんなキャラ、都市や国が出てきて
物語を楽しむうえでその旅の行程を理解するために、
というか単にあまりに面白いので自分で整理する意味も
あって地図を書いてみたくなった。調べてみたけど
トールキン作品ならたくさん中つ国地図とか出てるのに
ラヴクラフトとなるとちゃんとした地図ってなかなか
見つからない。単行本の最後のほうに資料として
載っている地図もイメージみたいな感じで正確ではない。
誰もこういう着眼点で楽しもうって思わないのかなあ。
まあとにかく読みながら検証しながら何回も書き直して
おそらくこうでしょう、という地図を作ってみました。

Phantasmagoria_001_2

さらに、旅の途中で登場するキャラがこれまた独特で
面白いというか、読んでいるうちにどうにも絵に描いて
みたくなり、これも自分で物語を理解して楽しむために
描いたものがあるので、それらも挿入しながら旅の行程を
辿る「図解 未知なるカダスへの旅」をUPしようかなと。
ラヴクラフトの既存のイメージを払拭しちゃいます。
ま、宝達奈巳版(Nami Hotatsu Edition)ということで。

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2010年3月23日 (火)

"immanence"

「DUNE」原作を英語で読破の後はラヴクラフト。こないだNY公演に
行った旦那さんがお土産に私の好きな「狂気の山脈」が入っている
ラヴクラフト作品集を買ってきてくれたのだ。年代順に作品が
収められているからか、最初のほうは「ウルタールの猫」など
短編でわりと読みやすくて、「DUNE」に比べたらどんどん読めて
わかりやすい!とか思ってたら、「ピックマンのモデル」あたり
からラヴクラフトの絵画論、芸術論みたいなものも展開され始め、
物語というか、論文みたいになって、エライことになってきた。

「銀の鍵」はもう大変。あれもランドルフ・カーターを自分自身の
分身みたいにして、自らの哲学思想や社会批判みたいなのが
強烈にまくしたてられてる。前半は気が狂いそうになった。
ただ、言っていることはよくわかるし、共感もおぼえる。
日本語訳と照らし合わせながら、それでもよくわからないところも
あるが、英語のほうが情景が浮かびやすかったりするところもある
ので、大変ではあるけど、読むのが苦ではなくむしろ楽しい。

今は「未知なるカダスに夢を求めて」をじっくりと堪能中。だいぶ
慣れてきたのと、トールキンで鍛えられたのか冒険物語ものは得意
だし、そういう物語でよく使われる英語での表現やリズムが自分に
馴染み深くなっているので、日本語で読んだ時よりも自分の中で
その世界がさらに豊かで詳細なイマジネーションにより創造され
彩られていき、広がっていく。日本語訳もP.K.ディックも訳して
いる方だけあって、なかなか味わい深く、2倍楽しめる感じだ。

「DUNE」は哲学と宗教と政治と神話が融合したSFといった感じで、
精神世界の表現が抽象的、概念的で難しいところが多々あり、妙に
詳細な描写があると思えば、いきなり数年も経っていたり、でも
物語としてはわかりやすいというか、単純なストーリーと言える。
しかし「未知なるカダスに夢を求めて」や「銀の鍵」などは、
体系化されきっていない不完全な神話や未知の存在が曖昧ながら
強烈にかつ象徴的に出てきて、それが物語の中核を成しているので
一般的には非常にわかりにくいのではないかと思う。それでも
その世界観に魅了される人も多く、スティーブン・キングなどにも
影響を及ぼしているし、その先駆性と普遍性は偉大なものだ。

さらに、DUNEとの共通点というか共通概念みたいなのを発見した。
どちらにも immanence という言葉がよく出てくる。
あらゆる時間、空間に同時に存在するっていう、あれ。クイザッツ
ハデラッハであり、大いなるものどもであり、外宇宙の蕃神...
いやー、ラブクラフトは早すぎたんだよな... 当時はことごとく
社会的に評価されてないところとか、痛いほど共感しちゃうよ~。

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2009年7月31日 (金)

トールキン上級編

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Christopher Tolkien 編集による「The History of MIDDLE-EARTH」
シリーズ。息子のクリストファーが父の残した膨大な数の原稿を
整理・編集・統括し、全12巻から成る「中つ国(Middle-Earth)」
の歴史を物語と補足解説で辿るシリーズ。これはもはや学問研究の
粋に達しています。シルマリルや指輪物語が完成する前の、原型や
バリエーションなので、登場人物の名前が違っていたり、かなり
ややこしく、英語も難しいです。
全12巻は気長に気が向いたら集めるつもりで、まずは前から読みた
かった詳しいベレンとルシアンの物語と、ゴンドリンの没落が
入っている「The Book of Lost Tales part2」。

Lost_tales2 .

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他にもエルフとドワーフが仲たがいする原因となったNauglafring
(「シルマリルの物語」では"ナウグラミア")という宝石の話など
6つの短編から成っていますが、物語の部分と補足解説の部分が
半々くらいで、研究書という印象が強いです。でもやはり物語は
それぞれ面白いです。

「Morgoth's Ring」

Morgoths_ring.

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「シルマリルの物語」の原型というか前身となる短編集と、ある
エルフ王がある人間の女性に質問し、それにその女性が答えながら
エルフと人間の性質や運命の違いを訴えていく形で展開される
「生と死」についての哲学的議論(「エルフ問答」と私は名付け
ました)が、「シルマリルの物語」のサイドストーリー的な面も
あって、面白かったです。

「The History of Middle-Earth Index」

Index_2.

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これは索引のスペシャル版という感じで、あらゆるトールキン作品
に出てくる人物や地名などの単語がアルファベット順に並び、それ
ぞれどの巻のどのページに出てくるかすべて網羅されています。
まだ2巻しか持っていませんが、例えば同じ話でも登場人物の名前
がバージョンごと違っていたりするので、これを使って把握する
機会が何回もありました。「ああ、これが後の誰々になるわけだ」
みたいな感じで。奥が深すぎます、トールキン。

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2009年7月25日 (土)

オスロ土産の"トールキン図鑑"

CHARACTERS FROM TOLKIEN

Photo .

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旦那さんが仕事でオスロに行ったときに買ってきてくれたお土産。
この本自体はイギリスのものみたいで、裏に£12.99とあります。
そう難しくない英語と独特のイラストによって構成されています。
まず第一紀の世界創造からから第四紀のフロドが旅立つまでの
時間的な流れを、主要な出来事と絵で表のようにまとめてあり、
次にアルファベット順にトールキン世界に登場する様々な種族や
生き物や魔物たち、地名や建物などが歴史的エピソードと共に
イラスト付きで解説されている図鑑といったところです。
とても簡潔かつ的確な解説文で、各時代の重要な出来事と名場面、
また登場するキャラクターたちの特徴をうまくイラストで描いて
いて、壮大な世界をよくこの一冊にまとめることができたなぁと
感心する「掘り出しもの」です。

月と太陽が昇る前に、世界を照らしていた2本の木。

Tow_trees_2 .

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さらにその前に世界を照らしていた2つの灯台がメルコール(モル
ゴス)によって破壊されるシーン。

Towers .

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驚くべきは、まとまった形の本が出されていない第二紀についても
詳しく的確に解説されているところで、これを読んで「なるほど」
と理解できたことがたくさんあります。また、物語を読むだけでは
詳しく知ることのできないトリビア的なマメ知識も書かれており、
この作編者は相当トールキン研究を深めている人物と思われます。
トールキン世界のすべてが網羅されていると言ってもよい一冊で、
旦那さんのお土産の中でもかなり上位にランクされています。

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2009年7月19日 (日)

見て楽しむトールキン世界

Atlas_2

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「中つ国」歴史地図

「トールキン世界のすべて」というサブタイトルだけあって、
世界の始まりの部分から文章だけでは具体的にイメージしにくい
地名や建物などの位置関係が大きな地図で示され、それと共に
各時代の主要な出来事が解説され、本を読むのが10倍楽しくなる
資料です。

最初は世界の成り立ちや全体像もよくわからなかったのですが、
これを見ながら読んでいくうちに、なるほど!と把握できたことが
たくさんあります。特に「指輪物語」と「シルマリルの物語」では
時代も大きく違うし世界の地形や地名も全然違う(ちょうど地球で
いうと恐竜の時代と人類の時代では大陸が移動しているように)の
ですが、それがこの本を見ると一目瞭然で比較もできるので、とても
わかりやすくて、いろいろなシーンも想像しやすく、トールキンの
世界をさらに深く理解・堪能できるようになりました。

また「シルマリル」(第一紀)と「指輪物語」(第三紀)をつなぐ
第二紀に関してはまとまった本がでておらず、断片的にいくつかの
エピソードや短編が「Unfinished Tales(終わらざりし物語)」や
「Lost Tales」などに分散して編集されているので、時間軸を
辿って歴史的に理解するのが難しかったのですが、この本により
それらがきちんとひとつの時間の流れの中で整理され、様々な民族
や国、登場人物などの歴史的背景や関連性、因縁などがより明確に
理解できました。

「指輪物語」の部分では、途中から別行動になった旅の仲間たちの
それぞれの足どりが詳細に地図上で日付と共に解説され、フロドが
ここでこうなっていた頃に、アラゴルンたちはこうだったとか物語
の進行を本を読むのとは別の着眼点から楽しむことができます。

さらにこちらのようなイラスト集(ポストカードタイプ)で
名場面を視覚的に楽しむのもおススメです。

PhotoPostcards .

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何人かの画家・イラストレーターによるものなので、いろいろな
テイストが楽しめて面白いです。

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Postcards1.

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これは映画「ロードオブザリング」ではアルウェンがフロドを
乗せたまま黒の乗り手たちを追い払うシーンですが、原作では
このイラストのようにフロドが一人で立ち向かうのです。
エルロンドの力によって川の濁流が白馬となるのは同じです。

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Postcards2_4.

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こちらは第一紀から第三紀までの「Middle-Earth(中つ国)」の
各時代の物語の舞台となる主要な土地の風景や建物が美しく
描かれているだけでなく、破壊や悲壮なシーン、ドラゴンや
バルログなどの禍々しい生き物たちもたくさん出てきて、
トールキン世界の奥深さ、幅広さ、豊かさが存分に楽しめます。

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